利府高校演劇部
平成十六年度 県中央大会 上演台本
月の舟
原 作 森 絵 都
脚 本 杉 内 浩 幸＋演 劇 部
登場人物 智 遠 藤 大 輔
さくら 川 村 遥
勝田 中 川 貴 之
サトル 早 坂 千 尋
梨利 赤 間 彩 夏
上演記録 日時 ２００４年 １１月１４日（日） １０時
場所 小牛田町文化会館
後ろ向きのさくらにスポット。
店長の黒い影
店長 名前は・・・
さくら ・・・・・・
店長 名前を言いなさい・・・
さくら ・・・・・・
店長 しょうがないなあ・・・・・初めてじゃないだろう・・・
さくら ・・・・・・
店長 そっちがその気なら、警察を呼ぶまでだ。
前向きで智にスポット。
智 おい、君。
さくら え？
智 こっち・・・
さくら あ・・・
智 さあ、早く・・・
さくら立ち上がって。
さくら動き出すと、暗転。
智の部屋。
智がいて、下手の部屋の入り口にさくらが立っている。
さくらはやや興奮気味、警戒気味。
智がラジカセのスイッチを切ろうとする。
さくら 切らないで。そのまま。
智 ・・・・・・
さくら ・・・・・・
智 さあ、入って、風邪ひくよ。
さくら ・・・・・・
智 さあ・・・（近づいて）
さくら ・・・・・・（身体を引く）（まだ少し興奮している）
智 （ミルクコーヒーをいれる）
さくら ・・・・・・
智 高校生？
さくら （うつむく）
智 三年生？
さくら ・・・・・・
智 まあ、無理に答えなくていいよ。
さくら どうして助けたんですか？（強い調子で）
智 君が困ってたから・・・ＳＯＳ聞こえた。
さくら ・・・・・・こんなことして、お店やめさせられませんか？
智 いいんだ、もうやめようかと思ってたところだから・・・
さくら あたしのせいですか？
智 君のせい？ ハハハ、僕は助けたいから助けただけだよ。そして君はついてきた。それだけのことさ。
さくら そうなの・・・・・・
智 さあ、飲んで・・・あったまるよ。
さくら 要りません。
智 そうか、じゃあ、ここにおいとくから、飲みたくなったら飲んだらいいよ。
さくら ・・・・・・
智がコーヒーをおいしそうに飲む。
智 寒くない？
さくら ・・・・・・
智 意地張ってないで、飲みなさい。
さくら （うつむく）
智 うつむいちゃいけない。
さくら え？
智 うつむいていたら、前に進めない。そう思わない？
さくら （軽くうなずく）
智 飲みたいだろう？ 飲みたければ飲む。それが前に進むということだ。
さくら （顔を上げて）
ミルクコーヒーを差し出す智。受け取るさくら。むさぼるように飲むさくら。
智 あったまるだろう？
さくら おいしい・・・これ、何ですか？
智 ん？ 普通のコーヒーだよ・・・ミルクをたくさん入れたからね。
さくら 本当においしい・・・
智 僕もそう思う・・・ハハハ。
さくら ・・・・・・
智 君、名前は？
さくら ・・・・・・
智 僕は智、二十四歳。君は？
さくら ・・・・・・
智 まあ、いいさ、そんなとこに立ってないで。落ち着いたら、送ってあげるから。家はこの辺なの？
さくら ・・・・・・いえ・・・
智 そう・・・
さくら さくら・・・さくらです・・・
智 さくら・・・か・・・高校生？
さくら そう。
智 仲間の子はどうしたかな・・・
さくら 見てたんですか？
智 狭い店だからね。
さくら ・・・・・・
智 友達かい？ あの子。
さくら ・・・（うなずく）
智 連絡しなくていいのかい？
さくら （強く首を振る）
智 きみ・・・
さくら 聞かないんですか？
智 何を・・・
さくら だから・・・
智 ああ、今日のこと・・・
さくら ・・・・・・
智 僕には関心がないから・・・
さくら でも・・・
智 でも・・・なんだい？
さくら 万引は悪いことだから・・・
智 そうだね・・・
さくら 怒らないんですか・・・
智 どうして怒るの？
さくら だって、あなたは・・・
智 智。
さくら さ、智さんは大人だから。
智 大人は、君みたいな子を怒らないといけないのかい？
さくら そうです。
智 ハハハハハハ、まるで怒って欲しいみたいだね。
さくら そういう訳じゃないですけど・・・・・・
智 そう・・・家の人に怒られる？
さくら はい・・・
智 ・・・もうあの店には行けないよ。
さくら もちろん、行きません。
智 さくら？
さくら え！
智 だって、君はさくらだろ？
さくら そうですけど。いきなり・・・・・・
智 名前で呼んじゃダメなのかい？
さくら そういうわけじゃないですけど。
智 さくら
さくら ・・・はい・・・
智 もう一杯飲まない？
さくら え、あ、いただきます。
智 おなかは？ すいてない？
さくら いいです、大丈夫です。
智 そう・・・どう、落ち着いた？
さくら ・・・（うなずいて）ありがとう・・・（腰を下ろす）
智 やっと座ってくれたね。
さくら すみません・・・
智 はい・・・（カップを渡して）
さくら おいしい・・・本当においしい・・・
智 僕も、そう思う・・・ハハハハハ
さくら フフフ・・・
智 やっと笑ったね。
さくら すみません。
智 あやまることじゃない。
さくら すみません。
智 だから・・・ハハハハ
さくら ハハハハハハ
智 もうこんな時間だ、帰った方がいいよ。送るから。
さくら あの・・・もう少しいていいですか。
智 僕はいいけど、家の人、心配しないかい？
さくら 大丈夫です、いつものことだから。
智 そう・・・さくら・・・
さくら え？
智 君、学校は？
さくら え？
智 行ってないんだろ。
さくら ・・・でも全然って訳じゃ・・・
智 僕もそうだった。
さくら 智さんも？
智 うん、ほとんど行ってないみたいなそんな感じ。
さくら どうして、どうしてですか？
智 ここで説明できるくらいなら、学校に行ってるさ。君だって、どうして、学校行かないんだい？
さくら それは・・・
智 ね、説明できるくらいなら、苦しんだりしないものさ。
さくら ありがとう・・・
智 どうしたの。
さくら なんか、気持ちがすっと楽になったって言うか・・・
智 人類を救うのが僕の任務だから少しは役に立たないとね。
さくら 任務？
智 任務だよ。
さくら なんですか、任務って。
智 さくらにはさくらの任務があるだろう？
さくら あたしに？
智 僕には僕の任務がある、人には人それぞれ任務があるじゃないか。
さくら そうなんですか・・・
智 そうだ。
さくら 智さんの任務って、人類を救うことなんですか。
智 というか、僕は人類を救う舟の設計をしてるんだ。彼らの命令でね。
さくら 彼ら？
智 そうだよ。
さくら 誰ですか、その彼らって。
智 それは機密事項だから、言えないよ。
さくら そう・・・
智 これがそうさ。
さくら これ、自分で書いたんですか？
智 まだ未完成だけどね。
さくら 学者さんですか？
智 ハハハハ、こりゃいいや・・・僕はただの貧乏フリーターさ。
智が描く舟の設計図を覗き込むさくら。
さくら お月様みたい・・・
智 彼らは今年中にこれを完成させたいらしい・・・
さくら そうなの。
智 でも、全人類を乗せる完璧な舟を作るには、時間が足りないんだ。
さくら ・・・・・・
智 不完全なものを彼らに示すわけにはいかないんだ。
さくら どうするの？
智 完成を遅らせるしかない。しかし、地球はどんどん病んでいるだろう？ 急がないと。
さくら そうなの・・・
智 君も乗るんだよ・・・・この舟に。
さくら そうなの？
智 うん。君を救う舟だよ。
さくら ・・・・・・これ、三日月・・・
智 そう・・・舟の形をしてるだろ。
さくら 本当だ・・・気付かなかった。
智 三日月はね。
さくら ん？
智 三日月はね、顔を斜めに上げて見る月なんだ。
さくら どういうことですか？
智 三日月は西の低い空にぽっかりと浮かんで、船の形をして、ゆったりと浮かんでいて、すぐに見えなくなってしまう。
さくら 顔を斜めに上げてみる月・・・
智 うつむいていたら、月は見えない。ほんのちょっと、顔を上げるだけでいいんだ。
さくら 智さんって、不思議ね。
智 なにが。
さくら なんか、本当だなって、思わせるっていうか。
智 本当のことだよ。さくら、信じてないのかい？
さくら そんなことない、信じてます。
智 それならいいんだ・・・ん？ そうか・・・このラインが歪んでるんだ・・・だから尾翼の重量が重くなって、機首が上がるんだ・・・分ったぞ・・・（智、やや殺気立つ）
さくら 智さん？
智 ここは日本の部品じゃだめだ・・・・・・
さくら 智さん？
智 早速輸入してもらうように彼らに頼んでみよう。
さくら ・・・・・・
智 一緒にいた子。
さくら え？
智 逃げた子。
さくら あ、梨利。
智 梨利って言うのかい？
さくら うん・・・
智 その子も乗せてあげよう・・・この舟に。
さくら だって・・・
智 友達なんだろう・・・その子。
さくら ええ・・・
智 乗れるさ・・・
さくら でも、あたし達もう・・・
智 その子は乗れるよ、月の舟に。
さくら そう・・・・・・梨利、梨利・・・・・
ぶつぶつ言いながら、設計図に没頭する智
さくら 智さん・・・・・・智さん・・・智さん・・・
さくらにだけ照明
メールの着信音。メールは映し出される。メールを打つ音。
（メール）六時。駅西ファミリーマート。ガム十個。乾電池。化粧水。ストッキング。フィルム多数。
（メール）多数って何よ。
（メール）あいつらの命令だから。
（メール）見つかっちゃうよ。
（メール）この前トチったから、挽回しろって。
（メール）あたしのせい？
（メール）来るの？ 来ないの？
（メール）わかった。
智の部屋、いつの間にか眠っているさくら。
サトル 完成したのか・・・
智 お前か・・・
サトル まだ、こんなもの書いてるのか・・・
智 僕の任務だ。
サトル お前はこんなことしてる場合じゃない。
智 うるさい、口出しするな。
サトル また、そうやって逃げるのか・・・
智 逃げる？ 僕は与えられた使命を果たすだけだ。
サトル 誰もお前の宇宙船なんか当てにしていない、お前の幻想だ。
智 幻想だと・・・現に僕は命令を受けてるんだ。
サトル 会わせろよ・・・そのお前の言う、彼らにさ・・・
智 彼らはお前のような奴には会わない。いいから、出て行け。
サトル いないんだよ、もともとそんな奴ら。
智 お前には見えないだけだ・・・お前のように心のねじくれてる奴には、彼らは見えない。
サトル ねじくれてるのはお前の方だろう。学校にも行かず、部屋に閉じこもって、仕事もせず、訳のわからないものを書いて、みんなが迷惑しているのがわからないのか。
智 迷惑だと？
サトル ああ、迷惑だ・・・お前のせいで、お前の母親は死んだんだぞ。
智 うるさい！
サトル お前のせいで、お前の父親はいなくなったんだぞ・・・
智 僕のせいじゃない・・・僕が悪いんじゃない・・・うるさい、うるさい、うるさい！
さくら目が覚める
さくら どうかしたの・・・
智 いや。
さくら どうしたの、それ。
智 なんでもない・・・
さくら 片付けるね。
智 いいんだよ、僕がやるから。
サトル 片付けてもらえよ。
智 もう一杯、飲むかい・・・
さくら うん、でも。
智 いいんだ・・・座って・・・座って・・・。
サトル ばかだなお前は・・・
智、ミルクコーヒーをいれる。
智 どうぞ。
さくら ありがとう・・・
サトル やりたいんだろ、智？
智 ・・・
サトル やっちまえよ、押し倒しちまえよ、この子だって、お前とやりたいんだよ、そうでなきゃ、いつまでもこんなところにいるわけねえじゃねえか。智、今だ。
智 うるさい、うるさいうるさいうるさい！
さくら どうかしたの・・・
智 いや、なんでもないんだ、飲んで。
さくら ・・・・・・あたし。
サトル チャンスだ、智。
智 うるさい！
智は突然何かを失ったかのように、設計図に取り掛かり始める。
さくら 智さん？
智 尾翼の重量を変えないと・・・・・・だめだだめだ・・なにをやってるんだ。
さくら 智さん・・・・・・
溶暗
電話の着信音。さくらが出る。切れる。
再び着信音。さくらが出る。切れる
三度着信音。さくらが出る。無言・・・・・・
さくら 梨利？ 梨利なの？ あたし、あたし・・・
電話切れる・・・・・・
智は、何かぶつぶつつぶやきながら、設計図に余念がない。
さくら、部屋が先刻より少し散らかっているのを見て、智の部屋を片付け始める。
さくら あたし、帰ります・・・今日はありがとうございました・・・コーヒー、ご馳走様。
智 ・・・・・・
さくら さようなら・・・智さん、また来ていいですか？
智 ・・・さくらのしたいようにすればいいよ。
さくら うん・・・
智のつぶやく声。
夜が更けていく。智にスポット。智を見守るサトル。
（暗転）
数日後、午後。夕日が差したような部屋
智はやや、苛立ち気味にまた何かを書いている。
いつものようにさくらが入ってきて。
さくら 智さん？
しかし、返事がない。智はぶつぶつつぶやきながら、髪をかきむしる。
さくら、散らかっているその辺の書類を片付けようとする。
智 触らないで・・・いいから・・・触らないで・・・
さくら ごめんなさい・・・コーヒー、淹れるね・・・
智 うん・・・いや、僕が淹れる・・・
さくら いいから、今日はあたしに淹れさせて・・・
智、聞いていない・・・
さくら、座卓の上のポストカードを見つけて。
さくら これ、素敵。
智 （コーヒーをいれながら）ああ、それ、ウィーンにいる友達から。もう向こうに行って、随分になるけど。
さくら お友達ウィーンで何してるの？
智 チェロの勉強さ。
さくら うまいの？
智 うまいよ、っていってもちょっと聴いただけだけど、すごいなあって、感動したこと今でもおぼえてる。
さくら どんな人かな・・・
智 そうだなあ、さくらにも友達がいるだろう・・・おんなじさ。
さくら そうだといいんだけど・・・どう、お仕事・・・
智 それが、どうもうまくいかないんだ。彼らの要求と僕の感覚が少しずつずれてるみたいなんだ。
さくら どうするの？
智 僕は僕の信念を貫くけど、場合によっては、完成が遅れるかもしれない。
突然、勝田が入ってくる
勝田 見つけたぞ・・・さくら、お前学校サボって、こんなところにいたのか・・・
さくら か、勝田君・・・どうして・・・
勝田 お前が早退するとこ見かけたから、俺も早退して、つけてきたのさ。
さくら バカ、それじゃストーカーじゃない・・・
勝田 何を言うか、この淫乱女！
さくら 淫乱ですって、どこが淫乱なのよ。
勝田 が、学校抜け出して、こ、こんな、男のアパートに・・・
智 友達かい？
さくら 勝田君。でも、別に友達じゃない。
勝田 おい、さくら。
智 コーヒーをいれてあげよう・・・
勝田 そ、そんなのいらねえや。さくら、帰るぞ。まるで、不良じゃねえか・・・
さくら 何よ全く、他人の家で・・・
勝田 だ、誰だって、いきまくさ。（部屋に入ろうとして）
さくら ちょっと入らないで。
勝田 お前の家かよ
さくら もう、帰ってよ、何しに来たのよ、人のこと追い回して。
勝田 おまえ、梨利と何かあっただろう・・・
さくら ・・・・・・あなたに関係ないじゃない。
勝田 あるんだ、それがおおありなんだよ。(ちょっと泣き声になって)
さくら なによ、もう・・・・・・
智 さくら、入ってもらったら、困ってるみたいだし。
勝田 失礼します。
さくら もう、いやだ。
智 まあいいじゃないか・・・友達なんだから・・・
さくら 友達じゃない。
勝田 そう言うなよ、さくら・・・
さくら 声が大きい！ この犯罪者！
勝田 何だよ犯罪者って。
さくら だってストーカーじゃない・・・
勝田 不良に犯罪者呼ばわりされたくないね。
さくら だれが不良だって！
勝田 それより、何より、梨利のことだよ。
さくら 梨利とあたしの問題に口出さないで。
勝田 俺にだって関係あるんだよ、お前わかってるじゃねえか。最近は口も利いてくんないし、
智 二人とも座って、これを飲んだら・・・
さくら 智さん、いいのよ、こんな人。
勝田 智っていうのか、あなた、さくらのなんですか。
さくら 勝田君には関係ない！
勝田 平日の昼間から、こんな汚い部屋で、女の子連れ込んで・・・
さくら 連れ込まれてなんかない！
勝田 さくら！
智 座って、二人とも・・・座って、さくら、落ち着くんだ。
勝田 座ります。
さくら もう・・・（座る）
智 さあ、飲んで。君・・・
勝田 勝田です。勝田尚純です。
智 尚純、飲みなさい・・・落ち着くから。
勝田 年上だからって、呼び捨てにしないで下さい、会ったばかりなのに、それに・・・これ・・・コーヒーですよね、俺、コーヒー飲まないから。
智 いいから、飲んで、尚純。
さくら 黙って飲みなさい、バカ！
勝田 （渋々飲んで）・・・うまい・・・
さくら バカ・・・
智 落ち着くだろう？
勝田 はい・・・落ち着きました。
さくら 単純ね。
勝田 なんとでも言えよ、俺はな・・・俺は・・・ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう・・・・・・
さくら 何泣いてんのよ、男のくせに。
智 さくら、話を聞いてあげないと・・・
さくら いいんです、この人はね、勝手に梨利を追い掛け回してるだけなんです。
勝田 さくら、それはないだろう・・・三人仲良くしてたじゃないか。
さくら あなたがそう思ってただけよ。
勝田 何があったんだよ、さくら・・・
さくら 何もない・・・
勝田 そんな訳はない、いいこと教えてやろうか・・・
さくら なに、なによ・・・
勝田 あいつ、クスリやってるぜ。
さくら え！
勝田 そーら、気になるだろう・・・
さくら 本当なの？ あいつら？
勝田 そうさ。
さくら 何で知ってんの？ 確かなの？
勝田 梨利のやつ早退したんだ。
さくら つけたのね。
勝田 あいつらのいるアパートに入っていった。
さくら それで？
勝田 次の日もあいつ、学校行かないで、直接あいつらのところに行ったんだ。
さくら 何で知ってるのよ。
勝田 朝五時から張ってたのさ。
さくら すごい執念ね。
智 勝田君は梨利っていう子が本当に好きなんだね。
さくら そうじゃない、智さん。ただの変態よ、追っかけまわして。
勝田 俺の気持ちわかってくれるんですか・・・・・
智 ああ、よくわかるよ。
さくら ちょっと、智さん・・・
智 さくら、彼女のこと、話してあげた方がいいんじゃないか？ こんなに一生懸命なんだし。
さくら でも・・・
智 僕のことは気にしなくていいよ。僕は任務があるから・・・
勝田 任務？ なんですかそれ・・・
さくら 勝田君には関係ない・・・（話題をそらすように）それで、どうなったの・・・
勝田 ああ、次の日、聞いたんだ、クスリの件も聞き出した。そしてお前のこと話したら、すごい嫌な顔したんだ。だから、二人の間に何かあったなって、そう思って。
さくら それで今度はあたしをつけた訳。
勝田 梨利のためだったら、俺、何だって・・・だから、さくらとの間に一体何があったのか、俺は知りたいんだ。
さくら ・・・・・・
勝田 梨利を助けたいんだ・・・あいつらから・・・さくら、頼むよ。
さくら あいつらには関わらない方がいい・・・大変なことになる。
勝田 梨利をほっとくのか、薄情な奴だな。お前とのことが原因で、あいつクスリに手出したのかも。
さくら あたしのせい・・・あたしだって、どうしたらいいかわかんないのよ。
勝田 何があったんだ、それが、知りたい・・・
さくら 何もない・・・・・・
勝田 うそだ、そんなうそくらいすぐわかる。
智 さくら、話してあげたら・・・こんなに一生懸命なんだから。
勝田 あなたは知ってるんですか。
智 知らないよ。
勝田 そんなことでいいんですか？
智 なんだい？
勝田 さくらの悩みをどうして聞いてあげないんですか。
さくら やめてよ。
勝田 大体ですね、あなたがさくら・・・（コーヒーをこぼす）すいません・・・あ・・・（設計図に気づいて）・・・あ・・・何ですか、これ、すごい・・・
智 宇宙船だ。
勝田 これ、あなたが書いたんですか、すげえ・・・これ、本当に飛ぶんすか？
智 もちろんだよ。
勝田 何で、こんなもん書いてんすか。
智 任務だからね。
勝田 任務？ なんか、格好いいっすね。
智 みんなそれぞれ立場や任務があるんだ。
勝田 僕にも・・・ですか？
智 僕は僕の任務で舟を作るけど、その情報を探るのが君の任務ならそうすればいい。どうせ設計図はまだ完成してないわけだし。
勝田 探る？ 僕が？
さくら あんたはスパイ・・・
勝田 スパイ？ ちょっとどういうこと？
智 彼らは僕の舟が少し重すぎやしないかって心配してるんだ。配置の問題も解決してない。舟の中では誰もが平等だけど、、人種や宗教の違いによる争いが完全になくなるまでにはかなり時間がかかりそうな気がする。あとはまあ、外観の問題かな。彼らは外観よりも機能性を重視してるようだけど、僕はやっぱり美しい舟を作りたいんだ。人類の誰もが誇りに思えるような舟を、ね。
勝田 彼ら？ 誰？ なんかよくわかんないけど、格好いいっすねえ。
さくら 勝田君・・・智さん・・・・・・
勝田 これはなんですか？
智 もちろんエンジンさ・・・
勝田 こんなに小さいんですか。
智 燃料はヘリウムを使う。だから、エンジンは小さくても大丈夫。
勝田 すげえ・・・格好いい・・・
勝田と智が意気投合して、さくらが独りになる。
梨利の後姿のフラッシュ
さくら 梨利！
勝田 (でかい声で)すごいですね智さん・・・これなら、本当に飛びますよ・・・
我に返るさくら。
智 当たり前じゃないか。尚純、君とは話が合いそうだ。
勝田 そうっすね。
智 さくら・・・ちょっと、出かけてくる、留守を頼む。
さくら ミルク？
智 うん、さくらが来るようになってから、大忙しだ。
さくら あたしが買ってくる。
智 いいよ、二人で話すこともあるだろう・・・僕に気兼ねなく話せばいいよ。
勝田 この辺の本とか、見せてもらっていいっすか？
智 いいよ。じゃあ、ちょっと行ってくる。
智出て行く。
さくら すっかり意気投合ね。
勝田 すばらしいよ、あの舟。
さくら いいなあ、男の人って、そういうことに夢中になれて。
勝田 子供っぽいって言いたいんだろ。
さくら ちょっと、悔しかった。
勝田 ヤキモチ焼いてんの？
さくら 勝田君には関係ない・・・
勝田 さくら。
さくら ん？
勝田 彼らって、誰だ？
さくら ・・・わからない・・・でも、誰かが、智さんに宇宙船の設計を依頼してるの。
勝田 うん。
さくら その宇宙船はいつか全人類を乗せて、飛び立つことになるの。
勝田 うん・・・俺たちもか？
さくら うん・・・時間はあまり残ってないみたい、だから智さんは急がなきゃいけない。
勝田 うん。
さくら 今まで聞いてきたことをまとめるとそうなるんだけど。
勝田 ちょっとやばいぞ。
さくら あなた、わかってて、盛り上がってたの。
勝田 宇宙船の話は話としてだよ・・・あの設計図はただ事ではない。
さくら そうなの・・・本当に飛ぶの？
勝田 わからない。
さくら なんだ、飛ぶって言ってたじゃない。
勝田 少なくとも彼は信じてる、そういうことだよな？
さくら そう・・・それだけでいいの・・・宇宙船のことになると、智さんの目がキラキラ輝くの。子どもみたいに。
勝田 うん、俺もつい夢中になった。
さくら でもちょっと心配。
勝田 ほどほどにしたほうがいいぞ、智さんも、万引も。
さくら 知ってたの！？
勝田 二人のことなら大抵知ってる。
さくら 信じらんない・・・・・・じゃあ、あの晩も？
勝田 あの晩？ やっぱり何かあったな。
さくら ・・・・・・
勝田 さくら・・・
さくら どうせつけてたんでしょ。
勝田 その日に限って、つけてなかった。
さくら ・・・・・・
勝田 さくら・・・
さくら 梨利は、あたしのこと恨んでる。
勝田 そんなことないって。
さくら どうしてわかるの？
勝田 だって、あんなに仲良かったんだから。
さくら それとこれとは別。
勝田 一体何があったんだよ・・・あんなに仲良かったのに・・・二人に何があったんだよ。俺までおかしくなっちゃいそうだよ・・・改めて聞く・・・梨利と何があった・・・
さくら 裏切ったのは、あたし。
勝田 つかまったのか？
さくら あたしが見つかったの。
勝田 じゃあ、何で、梨利がお前を恨む理由がないじゃないか。
さくら あたし、怖くて、怖くなって・・・・・・
フラッシュバック
店長 お前も仲間か？
梨利 違います。
さくら 梨利！
梨利の腕をつかむさくら
梨利 いやあ！
腕を払って逃げる梨利。
戻って。
さくら 裏切ったのはあたし。あたしたちの約束で、仲間を道連れにしちゃいけないって、そういう掟があるのに。あたしは梨利を道連れにした。
勝田 でも捕まったのはお前だけだろ？ あ、お前、家の人と学校とかバレてないじゃん。
さくら 智さんに逃がしてもらった。
勝田 そうか！ 救世主って訳だな。お前が智さんを信じきってるのもそのせいか。
さくら あの後、梨利から電話が来た。
勝田 それで？
さくら 無言で切れた。
勝田 そうか・・・やっぱり、梨利に会うべきだと思う。それが、俺と梨利にとっても一番いい。お前にも。
さくら そう簡単にはいかない・・・梨利をあいつらから引き離せなきゃ、何の意味もない。
勝田 そりゃそうだ。
さくら 梨利はあたしの言うことなんか聞くわけがない。
勝田 そんな事ないよ・・・
さくら 勝田君にはわからない・・・
智が帰ってくる。少し興奮気味で様子がおかしい。
さくら 智さん？
智 何だ、まだいたのか・・・悪いけど、もう帰ってくれないか。
さくら ミルク買えたの・・・
智 売り切れだ・・・
さくら そう・・・
智 君たちにコーヒーを入れてやることが出来ない、頼むから、帰ってくれ。君は誰だ？
勝田 勝田です・・・さっきから来てますよ、ここに。
智 そうだったっけ・・・悪いけど、二人とも帰ってくれ・・・
さくら そうする・・・また明日来ていい？
智 ・・・・・・
智がノートを取り出して何か書き始める。
さくら 智さん？
智 ・・・・・・・・・・
勝田 さくら、帰ろう・・・
さくら 智さん・・・
智 ダメだ・・・ダメだ・・・こんなんじゃだめだ（書きなぐる）
さくら 智さん！
勝田 さくら！
勝田がさくらを無理やり連れ出す。
さくら 離して、離してったら・・・
勝田 さくら・・・
さくら なによ・・・さっきの続きなら、何度も言ってるけど・・・
勝田 そうじゃないよ、智さんのことだよ。
さくら あんな智さん初めて見た。
勝田 なあ、さくら・・・お前もうあの部屋行かないほういいんじゃねえか。
さくら ・・・・・・智さんが普通じゃないから？
勝田 さっきの見ただろ？
さくら ・・・・・・
勝田 さっきのはただの落書きじゃないか・・・
さくら ・・・・・・
勝田 お前の気持ちはわかるけどさ。
さくら うそ、分かってない！
勝田 お前に何かあって、梨利とおまえが元通りになってくんないと、俺だって困るんだよ。
さくら 自分のことばっかり・・・
勝田 なあ・・・さくら・・・お前も感じてるんだろう？
さくら なに？
勝田 あの人、少しおかしいんじゃないか？
さくら おかしいって？
勝田 だからさ・・・
さくら だから、何よ！ 勝田君には関係ない！
さくら走り出す
勝田 さくら、さくら・・・（さくらを追って）
サトル出てきて。
サトル 二人ともお前の異常に気づいたぞ。
智 異常？ 何だ異常って・・・
サトル いつも売ってるミルクがなかったくらいでその動揺は何なんだ。
智 動揺なんかしていない。
サトル 動揺してるさ・・・任務も遂行できない、ミルクは売っていない、何もかも自分の思い通りにならない・・・六年前のお前とおんなじだ。
智 六年前？ それがどうした。
サトル そのノートを見てみろ。
智 ・・・・・・
サトル それだけの設計図は、並の人間には書けやしない。お前は成績優秀、誰からも期待される優等生だった。両親の自慢だった。
智 何のことだ・・・俺は知らない・・・
サトル なあ、智、思い出すんだ。
智 なんだ、何を思い出せってんだ！
サトル 母親の顔を覚えてるか・・・
智 覚えてるさ・・・
サトル お前の母親が何で死んだか知ってるか？
智 知ってるさ・・・病気だ、病気で死んだんだ。
サトル そうだ、突然死だ。なぜかわかるか・・・
智 僕のせいだ、そう言いたいんだろう。
サトル そうだ、お前のせいだ。お前の母親は一人息子のお前に期待してた。父親は会社が倒産して、落ちぶれるばっかりだった。母親にはお前しかいなかったんだ。
智 そんな事わかってる。僕だって、その期待に応えようとしたんだ。
サトル じゃあ、なんで学校へ行かなかった？
智 行かなかったんじゃない、行けなかったんだ。
サトル なぜだ、なぜだ。
智 学校へ出かけるときのあの、母親のニヤニヤした顔が、見たくなかった。勉強勉強、って、そればっかりだった。
サトル 勉強するのは当たり前だ。お前は間違ってる。
智 僕は間違ってる。違う・・・僕は、僕には、友達がいたんだ。
サトル 露木か
智 そうだ・・・露木君は僕の小学校からの友達だ・・・母親は僕と露木君を引き離した。
サトル 露木は狂っていたからな・・・
智 狂ってなんかない！彼は、僕にとって大切な存在だった。それなのに、彼が心の病気で、学校を休み勝ちになると、母親は僕を彼から遠ざけようとした。僕の、大切な友達に会わせようとしなかった。
サトル 露木は狂っていたからな。
智 狂ってなんかない！（サトルに飛びかかる）
サトル ずいぶん力があるじゃないか・・・その力をどうして外へ向けない。こんな小さな部屋に閉じこもって、ありもしない命令を作り出して、飛びもしない宇宙船の設計図なんか、こんなもの何の役にも立ちはしない。
サトル、ノートを破り捨てる。
智 何をするんだ！
サトル こんな舟が、完成するとでも思ってるのか。
智 舟は必ず完成する。いつか必ず、空からやってくる。
サトル 誰が乗るんだ、その舟に。
智 みんなを救うんだ。
サトル うぬぼれるなよ、智。お前は、一人じゃ何も出来ないんだ。自分の始末さえつけられないお前に、他人が救えるものか。
智 僕は、僕は・・・
サトル 本当のことを言え、お前は誰を救おうとしてるんだ・・・智、本当のことを言え、逃げるな、智！
智 僕は、僕は・・・
サトル どうした、智、言ってみろ、智
智 僕は・・・・・戻ってきてほしいだけだ、月の舟に乗って、みんなに、戻ってきてほしいだけなんだ。
サトル ・・・・・・智・・・自分だけが一人だと思うなよ。（消える）
智 出て行け！出て行け！出て行け！
物壊れる音。叫び声。
さくらが戻ってくる。
さくら 智さん・・・智さん！
智 出て行け、お前なんか出て行け！
さくら 智さん！
智 ちくしょう、二度と来るな、消えろ、消えろ！
さくら 智さんってば！
さくら、智を必死で止めようとする。
さくら 智さん、私がわからないの！
智 ・・・・・・・・・・さくら・・・・・・
さくら、その場にへたり込む。
智 さくら・・・僕は・・・
さくら 智さんの目には私達のことなんか映ってないの？
智 え？
さくら 智さんにとって、私達の存在って何なの？
智 何を言ってるんだ・・・
さくら 智さん・・・あたしが邪魔？
智 今、彼らが来ていたんだ。
さくら どこ、彼らって。
智 ・・・・・・
さくら どこなの・・・智さん・・・
智 さくら・・・信じないんだね。
さくら ・・・・・・智さんはどうして月の舟を作るの？
智 だから、人類・・・
さくら うそ・・・
智 さくらや尚純や、さくらの友達や・・・
さくら 智さんは？
智 え？
さくら 智さん自身は・・・救われるの？
智 ・・・・・・
さくら 智さんが本当に救いたいものって、何？
智 僕は・・・・・
さくら あたしじゃない・・・あたしなんかじゃないでしょう・・・
智 ・・・・・・
勝田が戻ってくる
勝田 さくら・・・
さくら 智さん・・・
智が静かに机について、新しいノートに図を書き始める。
勝田 智さん、何を書いてるんですか・・・
智 ああ、尚純か・・・今度のは新しいモデルだ・・・
勝田 智さん、ぼくの部屋はありますか？
智 当然じゃないか？
勝田 梨利の部屋もありますか。
智 梨利って、さくらの友達だろ？
勝田 というか・・・
智 尚純の恋人か・・・
勝田 というか・・・
智 部屋を隣にしてあげよう。
勝田 本当ですか・・・・・・できるんですか。
智 できるとも・・・尚純は梨利って子が好きなんだね。
勝田 ・・・・・・智さん・・・
智 なんだい？
勝田 僕は梨利を助けたいんです。
智 舟に乗ればいい。
勝田 いえ、今助けたいんです。
智 今？ もう少し待てないのか、舟の完成は近い。
勝田 手遅れになるかもしれないんです。
智 さくら、そうなのか・・・
さくら ・・・・・・
勝田 とにかく梨利を助けたい。どうすればいいですか。
智 そうだなあ・・・今度、その梨利って子も連れてくればいいんだ。三人一緒に乗ればいい。
勝田 智さんが助けてくれるんですか、梨利のこと・・・
智 舟だ、月の舟だ。
勝田 （めちゃくちゃの図面を取り上げて）これのどこが舟なんですか・・・
さくら 勝田君、ダメ！
智 月の舟・・・
勝田 そんなもの、来るわけがない！
さくら ダメ、ダメ！
智は放心状態となり、机に向かって、無反応となる。
さくら 智さん・・・
勝田 俺・・・俺・・・
勝田、部屋を去る。
智が部屋の隅のほうへ行って座り、動かなくなる。
さくら ・・・・・・
智 ・・・・・・
智 コーヒー飲むかい？
さくら ・・・・・・う、うん・・・
智、ミルクコーヒーを作ろうとするが、ミルクがなかったことに気付く。
智 ミルクがないんだけど、いいかい？
さくら ・・・うん・・・
智、一つのカップをさくらに渡し、もう片方を自分で持って、また片隅に座る。
さくら （一口飲んで）苦い・・・
智 だめかな・・・
さくら でも、おいしい・・・
智 うん・・・・・・・・・友達がさ・・・親友っていうのかな・・・とにかくさ、小さい頃からいつも一緒だった。チェロの上手な子だった。いつもいつも弾いてた。
さくら ウィーンの人ね。
智 でも、彼はある時、心の病気になった。
さくら ・・・・・・
智 母さんがね、彼とぼくを引き離した。彼は病気だからって・・・僕は彼のチェロを聴けなくなった。
さくら うん・・・
智 彼が狂っていたから・・・
さくら そうなの・・・
智 みんながそう言った・・・あんなにチェロが上手なのに。
さくら うん・・・
智 僕は間違ってたんだろうか・・・
さくら え？
智 僕が間違ってたから、だからみんないなくなってしまったんだろうか・・・父さんも、母さんも、露木君も・・・
さくら そんなことないよ・・・
智 尚純もいなくなった・・・今度は・・・
さくら そんなことない、そんなことない！ 私はいなくならない・・・智さんは間違ってない！
間
智がラジカセのスイッチを入れる。
さくら 智さん・・・
智 ん？
さくら 任務、続けてください。
智 え？
さくら あたしは智さんに救われたから・・・
智 さくら・・・僕は・・・
さくら あの日、あたしが梨利を裏切った日、智さんが助けてくれなかったら、あたし独りぼっちになるところだった。
智 僕は・・・僕は・・・
さくら だから、智さん・・・月の舟・・・あたしを救ってくれたように・・・
さくら、智に真新しいノートを渡す。
智 三日月はね。
さくら うん・・・
智 三日月はね、顔を斜めに上げて見る月なんだ。西の低い空にぽっかりと浮かんで、舟の形をして、ゆったりと浮かんでいて、すぐに見えなくなってしまう。
さくら うん・・・
智 僕は、彼と一緒に、舟に乗りたかったんだ・・・
さくら うん・・・
智 さくらや、さくらの友達や尚純も、一緒になれるといいなあ・・・
さくら 智さんも一緒だよ。
智 うん・・・・・・うつむいてばかりいたら、月は見えない・・・
三日月が覗いている。
智 さくら・・・
さくら 行ってくる・・・
智 ああ・・・行っておいで。
さくら独りで部屋を出て行く。
智、さくらを見送って、また、座卓に向かう。
そして、真新しいノートに筆を下ろす。
（幕）