利府高校演劇部 平成十一年度 宮城県高等学校演劇コンクール県中央大会 上演台本（最終決定稿）１１月８日
あー！ ―迷い子完結編―
作 杉内 浩幸
登場人物
マサオ 神野真史 （3年）
リョウ 岸 和哉 （2年）
アツコ 関東芽久美（2年）
ユイ 和泉真里子（2年）
ミノリ 亀山未知子（2年）
サツキ 内海諒子 （2年）
上演記録 1999年11月21日（日）15:00開演
仙台市青年文化センター シアターホール
教室らしき場所
ミノリが一人机で英語を勉強している。
マサオとアツコとユイが三人でなにやらやっている。
三人 せーの、あーーーーーーーーー……・・
アツコ 三十秒、あたしの勝ち！ 讃岐屋のチーズケーキ頂き！
マサオ アッコ、途中で息継ぎした。
ユイ ずっこー……
アツコ してない！ ひどい！ 負けたからってサイテイね。
マサオ だめ、やりなおし。
アツコ 何賭ける？
ユイ 大黒屋のプリン。
マサオ 食い物ばっかり…
ユイ なんか言った？
マサオ あん？
アツコ バカ…
マサオ いくぞ、せーの…
ユイ、倒れる。
アツコ ユイ……ちょっと、ユイ、どうしたの？
マサオ お前は既に死んでいる、ギャー！
ユイ 殺すな…ちょっと息吸いすぎた。
アツコ アホね。
ユイ 何よ、バカ。
アツコ バカって言うな、バカ。
ユイ プリン、食いそびれた。
アツコ あああ、つまんない。
マサオ 今度は何する？
アツコ もういい、疲れた。
ユイ もういい、疲れた。
アツコ むかつく！
ユイ イヒヒ…
マサオ あああーあ……誰か来ないかな、様子見てこようか。
アツコ 気配なし。
ユイ 足音なし。
マサオ 何でこんなことになっちゃったのかなあ…
ユイ 原因不明。
アツコ 意味不明。
マサオ 同じクラス！
アツコ じゃあ、あとのメンバーは？ え、どうして来ないの！ 答えなさい、ほら、答えなさい。
ユイ 四人に共通点なし。
マサオ 十八歳！
アツコ あたしまだ十七。
マサオ 遊び仲間。
アツコ あーって息継ぎ競ってるようなお仲間がどこにいるの？
マサオ ははは…
アツコ 信頼関係なし。
ユイ 友情なし。
マサオ 分かった、成績不振者だ。赤点三つ以上とか。
ユイ ミノリに刺されるよ。
マサオ ははは…
アツコ 共通点…
ユイ ないよね。
アツコ 友情なし、優しさなし…
ユイ 思いやりなし。
マサオ それだ。
アツコ なに？
マサオ 優しさとか、思いやりとか。
ユイ 意味わかんない。
アツコ あなた、ある？
マサオ 分かりません。
アツコ そうか……あたし達優しさがないんだ。優しさのない人集まっちゃった。
ユイ そんなことどーやってわかるの？
アツコ わかんない。
ユイ バカ。
アツコ バカって言うな。
ユイ あんたさあ、さっきあたしが倒れた時なんて言った？
アツコ どうしたのって、ものすごく心配した。ううん、あたしって優しい心の持ち主…
ユイ そのあとよ、そのあと。
アツコ 覚えてない。
ユイ アホ。
アツコ アホって言うな、アホ。
ユイ あなたが最初に言ったのよ、アホって。
アツコ 言ってない。
ユイ 言った……それも「アホね」なんて世の中分かったような言い方をしてあたしを傷つけた！
アツコ 言ってない。
ユイ 言った。
アツコ 言ってない。
ユイ 言った！
マサオ 言った！
アツコ ひどい！ 二人して、そうやって徒党を組んで、か弱い乙女をいじめるのね。非道、鬼、犬のケツ！
マサオ なんだそれ？
ユイ 犬のケツ？
アツコ ちょっと思い出したの、うちの犬。
マサオ お前、自分ちの犬思い出すとき、ケツから思い出すのか。
アツコ たまたまよ、たまたま。
マサオ たまたま……オスだったのかあ……
アツコ キャーひどい……
ユイ 一人でやってろ、バカ。
アツコ バカって言うな、バカ。
ユイ あんた、やっぱり優しくないよ。
アツコ どおおおーしてわかる？
ユイ あたしがそう思ったから優しくないの。
アツコ 証拠は、証拠。
ユイ んなもんないわよ。
アツコ だったら言うな。
ユイ、突然マサオを転ばせ、足で踏みつける
マサオ ギャー！
アツコ バカみたい。
ユイ フフフフフフ
アツコ 何よその不敵な笑い…
ユイ 証拠はそれだあ、お前は既に死んでいる。
アツコ あん？
ユイ 人がいじめられてるのを見て、なんて言った。
アツコ ……しまった……
ユイ 優しさのかけらもない、非情女め！ ファファファ……
アツコ、マサオの腕をひねりあげて、
マサオ いてててててて…
ユイ バッカみたい。
アツコ ファファファ、お前も既に死んでいる。
ユイ ……しまった……
アツコ 優しくないよね。
ユイ バッカみたい…やめようよ、くさいくさい…優しさなんてねえ。
マサオ 人類を救うんだぞ。
ユイ 真剣バカね。
マサオ 優しくない。
アツコ そんなこと分かってるよ。
ユイ 誰も優しくなろうなんて思ってないの…
マサオ それでいいのか…人類。
アツコ バカみたい。
ユイ そうじゃないの…こいつ…バカなの。
マサオ あー！（かなり接近して）
アツコ うるさいって言ってんでしょ…バカ。
マサオ バカ？
アツコ ……
マサオ 僕って、バカ？
アツコ は？
マサオ ねえ、僕って、バカ？
アツコ あなた、悩みないでしょ。
マサオ 悩みくらいあるさ、俺だって。
アツコ へえ…みんなに暑苦しいって言われること？
マサオ 僕ってそんなに暑苦しい？
アツコ・ユイ うん。
マサオ （うなだれる）もう、いいよ。
アツコ 聞きたいよ……ねえ…マサオの悩み…
マサオ うるさい…
アツコ うるさくない。
マサオ あー！
アツコ どうせ、くだらない悩みなんでしょ。どうして僕は人より鼻の穴が大きいんだろうとか…
マサオ 大きくない！
アツコ そんなこと言ってない……バカ……本当にバカなんだから。
マサオ バカバカ言うなよ、バカって言う奴ほどバカなんだぞ…っておかあちゃんが言ってた。
アツコ ぷ…お母ちゃんだって。
ユイ マザコン…気持ち悪い。
アツコ そうそう、ねえ、マザコンってなんの略？ あたしさ、、前々から…エヘ…
ユイ それは…その…マザーコントロールに決まってんじゃん。
アツコ どういうこと？
ユイ だからマザーにコントロールされてるってこと。
アツコ そっかあ…あんた、お母さんにコントロールされてんの。
マサオ 僕はマザコンなんかじゃない。
アツコ ダメよもう決まったんだから。
マサオ 勝手に決めるな。
ユイ ごめん、マザーコンディショナーだ。
アツコ それ、エアーコンディショナー…
ユイ そうかもしれない。
アツコ バカ…
ユイ バカって言うな、バカって言う人こそバカなんだぞ…っておか…・・
マサオ ぷ…お母ちゃんが言ってたの？
ユイ うるさい。
ミノリ （ボソッと）マザーコンプレックス……
ユイ それ、それよ…
アツコ ぜんぜんじゃん。
マサオ さすがミノリだ。君たちとは違う。
アツコ あんたのこと言ってんでしょ。
マサオ 僕はマザーコンクリートなんかじゃない。
間
ユイ バカ……
アツコ こいつ、アホねん……ショック…
ユイ どうする…この頭の悪さ…
アツコ いじめたくなるよね。
ユイ アッコ…
アツコ ヒヒヒ
マサオ 僕…うれしい……ぶって…
アツコ マサオ…………あんた、あれも入ってるの？
マサオ うっふーん…
ユイ 暑苦しくて、マザコンで、マゾ？ だめだこりゃ。
間
マサオ 僕だってね、考えてんの。
アツコ へええ、なにを…
マサオ なにをって、これからのことさ。
アツコ 人生設計？
マサオ そうじゃなくて…ほら、これからどうしようかなって。
アツコ 受験？
ユイ それ禁句。
アツコ 女になるの？
ユイ やめて、気持ち悪い……噂は本当だったのね。
アツコ 何、噂？
ユイ 手術したって話。
アツコ え、ないの？
マサオ ゲッ！
ユイ とっちゃったの…ほんと？
マサオ 見る？
アツコ バカあ！
ユイ 同性愛の時代とは言っても、高校生ってのは聞いたことないよね。
アツコ なに…
ユイ ほら、あれとっちゃうとさ、女性ホルモンが多くなって、髭がなくなったり、胸が大きくなったりするん
だって。
アツコ 胸？
ユイ 胸だったら、脱がしちゃおうか。
アツコ 胸、見てみたいね。
マサオ あ、バカ、セクハラ！
アツコ ヒヒヒ
ユイ ヘヘヘ
マサオ やめろやめろ……ギャー！
ミノリ うるさい！（たちあがって）
アツコ あ
マサオ あ
ユイ ねえ、何やってるの？
ミノリ 勉強に決まってるでしょ、邪魔しないで下さる。
アツコ 邪魔しないで下さる………だって…
ユイ バカ、命令よ。
マサオ へへへ
ユイ 笑うな！
マサオ へへ（口を押さえる）
ユイ 邪魔しなきゃいいのよね。
アツコ ミノリ、そろそろ交替しない？
ミノリ ダメよ、だってちっとも言うこと聞かないじゃない、あなたたち。
マサオ ごもっとも。
ユイ バカ！
マサオ バカって言うな、バカ。
ユイ 命令するな、このふんどし野郎。
マサオ 僕はふんどしなんかしてない！
ユイ じゃあ、見せろ！
マサオ 命令するな、バカ。
アツコ やっぱ脱がしちゃおっか。
ユイ そうね。
マサオ あ、バカ、やめろ、このやろ、ひとでなし、鬼、犬のケツ！
アツコ やだ、恥ずかしい…
ユイ こら手、放すな！
三人どたばたやっているうちに疲れてくる
ミノリ あー！ お前たち、勉強しろ！
静寂
マサオ 誰か助けに来てくれないかな……
アツコ 気配なし。
ユイ 足音なし。
マサオ 何でこんなことになってるわけ？（息も絶え絶えに）
ユイ 原因不明。
アツコ 意味不明。
ユイ 四人に共通点なし。
マサオ 同じクラスだろう……
アツコ 信頼関係なし。
ユイ 友情なし。
アツコ 勉強………出来ない組？
マサオ ミノリは学年一位……
アツコ じゃあ遅刻欠席。
マサオ ミノリは無遅刻無欠席。
アツコ だめか……共有物なし。優しさなし。
ユイ 思いやりなし。
アツコ その辺かなあ。
マサオ なに……
アツコ 優しさとか思いやりとか…
ユイ 意味わかんない。
アツコ あなた、ある？
マサオ 分かりません。
アツコ やっぱり、それだ、あたしたち優しさがないんだ、優しさのない人集まっちゃった。
マサオ 僕は…優しいぞ。
アツコ （突然）助けて、助けて…胸が、胸が……
マサオ どうしました？ さすりましょうか…
アツコ キャー、痴漢！
マサオ そんなあ……
ユイ そういうのは本当の優しさって言わないと思うな。
マサオ じゃあ何が優しさなんだよ。
ユイ 相手が必要ね。
マサオ 優しくする相手？
ユイ いや、いじめる相手よ。
マサオ なに…・・
ユイ 正確には、誰かが誰かをいじめてるのを見てる時ね。
マサオ どういうこと？
ユイ だってそうすれば、相手がかわいそうだと思ったとき、自分に優しさがあるって、分かるじゃない。
マサオ 無茶苦茶だな。
アツコ ねえ、試してみない？
マサオ え？
アツコ あなた、ミノリをいじめてよ。あたしたちそれを見てどう感じるか知りたいの。
マサオ 無茶言うなよ、相手が悪いよ。
リョウ入ってくる
マサオ あ
アツコ あ
ユイ あ
リョウ おう…久しぶり…どうしたの…これ…なんだ、ここ？
ユイ 教室よ。
リョウ 席替えか？ 大掃除か、ん？
マサオ はは……来たの…
リョウ なんだおめえ、また蹴飛ばされてえか。
アツコ リョウ……
ユイ 何しに来たのよ。
リョウ …俺の机どこだよ…
アツコ どうしたのリョウ…
リョウ どうしたって、学校に来たんじゃねえか。
アツコ 何日ぶり？
マサオ バカ、何ヶ月だろう？
アツコ そっか…
リョウ どうでもいいよ、そんなこと。（見回して）何だ、授業じゃねえのか…
マサオ 授業？
リョウ 何…
マサオ ああ、ないんだ。
リョウ 自習か…
マサオ ああ、まあ、そんなところだ。
リョウ 何だ、久しぶりに来てやったのによ…俺の机どこだよ。
マサオ ははは
アツコ ないの…
リョウ ない？
アツコ あるかもしんないけど、ないの…その辺、探して。
リョウ おめえ、何言ってんだ訳わかんねえ……お前ら…何やってんの…自習だろ…自習…こう、プリントとか何
か、ねえのか…
マサオ ないんだ…
リョウ 訳わかんねえ……お前この間ゲーセンで伸吾と遊んでたろう。
アツコ それが？
リョウ ヒカルが、伸吾取られたって、殺してやるってよ…
マサオ へえ、アッコって、なかなかやるんじゃん…
アツコ 違うよ、悩み聞いてやっただけよ。
リョウ だろうな。
アツコ なあに。
リョウ お前に彼氏出来るわけねえもんな。
アツコ ヒカル、どんな様子（憮然として）
リョウ 知らねえよ。自分で聞けよ。あいつ、マジだったぜ…他の連中は？
マサオ …………
リョウ おい、マサオくーん、他のみんなはどうしたのかなあ？
マサオ はは……
リョウ おめえばかにしてんのか。俺が久しぶりに学校来たからって、え？
マサオ いないんだ…
リョウ あん？
マサオ いないんだ、俺達だけなんだ。
リョウ 休みか？
マサオ うん、わからない。
リョウ 先生は？ 聞きゃあいいじゃんか。
マサオ はは…
リョウ なんだよ！
マサオ いないんだ…先生
リョウ おめえ、何言ってんだ…なめんじゃねえぞ！
アツコ ちょっとやめて…
ユイ カリカリしてないでさ、みんなお昼にしたら…
リョウ 鐘鳴ってねーだろ。
ユイ プッ…リョウ、あんたがそんなこと言うとはね。
リョウ なんだよ、だって鐘…
マサオ 鳴らないんだ。
リョウ そっか、壊れてんだ。
マサオ まあ。
リョウ まあ、いいや…アッコ、ノート見せろよ。
アツコ え、ノート？
リョウ 遅れちまったからさ。
アツコ あ、ああ…でも、とってないんだ、あんまり。
リョウ お前が…ある分でいいよ。
ユイ あんたが、ノート写すだなんて…信じらんない。
リョウ 俺だって卒業してえんだよ。
アツコ ごめん、このごろさあ、勉強してなくってさあ。
リョウ 何だよ、じゃあ、お前でいいよ。
ユイ じゃあって何よ。……いやよ。
リョウ ふん……なんだよ…そんなに珍しいか…俺が勉強しちゃ悪いってのか……なんだよ、お前ら、なんだよそ
の目……どうしたって言うんだよ……
マサオ いや、ほら、リョウ久しぶりだから、みんな緊張して…・・
リョウ 来ちゃ悪かったか、そうかそうか、なんか変だと思ってたんだ、俺が来ちゃ悪いってんだろう、マサオ、
悪かったなクラスの風紀乱してよ、どうせ俺は邪魔者だよ、分かったよ、帰るよ、もう来ねえよ、あー！
アツコ そうじゃないのよ、リョウ…！
ミノリ いい加減にしてよね。（机を思いっきり叩いて）
全員 ……
ミノリ またわかんなくなっちゃったじゃない。あー！
リョウ てめえ…………
アツコ やめて…リョウ！
ミノリ ちょっと、あんた、何しに来たのよ。勉強しない人は、帰ってよ。
リョウ うっせー！
ミノリ 私たちは受験生なのよ。
ユイ プッ…マサオ、あんた、受験生？
マサオ は、まあ一応。
ユイ ばっかみたい。
ミノリ 今日はハラダの授業あるでしょ。ちゃんと勉強しなさい。またテストよ、きっと。
ユイ あんた、本気で言ってんの。
ミノリ なあに…
ユイ ハラダが、ほんとに来るとでも思ってんの。
ミノリ 来るんじゃない……担任なんだし……
アツコ 来ない…
ミノリ なあに？
アツコ 来ないのよ…来るわけないじゃない。
ミノリ なあに…
ユイ あなた、ハラダと援交してたって本当？
マサオ エンコー
リョウ エンコー
マサオ ハラダ
リョウ ハラダ
マサオ おお……ミノリとハラダだ…フワフワフワッと…
リョウ ヒヒヒ…まさか…
ユイ 何とか言いなさいよ…
ミノリ ……
ユイ どうなの？
ミノリ ……
アツコ ちょっと…
ミノリ それがどうかしたの…質問に行っただけよ。
アツコ そう……
ユイ もうしゃべっちゃったら…
ミノリ なに、あなたには関係ないでしょ。
ユイ だって、見た人いるのよ、あなたとハラダが、一緒に歩ってるとこ…
ミノリ ……一緒に歩ってたらエンコーなの？
アツコ 何してたの？
ミノリ 参考書選んでもらったの…それだけ…進路のことで相談にのってもらっただけだって…
ユイ へへへへへ
アツコ 何、何、なんなの…何してたの…ねえ、ミノリ…何したのよ、ユイったら……
マサオ あれでしょあれ……
アツコ 何よあれって、アッコわかんなーい。
ユイ ボケ！
アツコ ボケって言うな、ボケ！
ミノリ バカみたい。
ユイ 何よ、あんたの話でしょ……この恥知らず！ あんたみたいなのはね、いなくなればいいのよ……
ミノリ 何よ……
ユイ 下手に勉強できる奴がいるから、あたし達が白い目で見られるの。
リョウ ひでえ理屈だな、ユイ。
ユイ あんたのことでしょ。
リョウ 俺は別に困ってませーん。
ユイ くやしいー！
アツコ ユイ……もういいって……
ミノリ バッカみたい。
アツコ ミノリもよしなって、もう……
長い間
マサオ ねえ、みんな、歌でも歌おうか。
アツコ バーカ。
リョウ ばっかみてえ…俺帰る。せっかく来てやったのによ。
マサオ 海は広いな大きいな 月が昇るし陽が沈む
繰り返す
海にお船を浮かばせて 行ってみたいなよその国。
リョウを除くみんな合わせて歌う。
マサオ よその国、来ちゃったのかな、ははは。
アツコ ははは
マサオ ははは
アツコ ははは
ユイ ははは
マサオ ははは
アツコ ははは
リョウ ばっかみてえ！ 帰る！
リョウ、出て行く。
アツコ リョウ、リョウ…
マサオ あいつ……
ユイ すぐ戻ってくるよ。
アツコ リョウ……
マサオ アッコ…お前、リョウのこと好きだろ…
アツコ なによいきなり…
マサオ あれ、赤くなってる…
アツコ あー！
マサオ リョウくーん…アツコちゃんが告白するってよー
ユイ あんた、リョウがいなくなるとほんと元気だね。
マサオ へへ……あいつさあ、ああやってつっぱってけどさ、仲間内じゃ下っ端なんだぜ。南高の女の子になんか
顎で使われてんだから。
ユイ そういうあんたはそのリョウに頭あがんないわけ。
マサオ う…
アツコ マサオ、リョウ達、いつもどこにいるの？
マサオ 大体南町のゲーセンだろ。
アツコ そう…
マサオ 気になる？
アツコ 別に？
マサオ もういいじゃん、照れなくたって……あいつ、仲間の夕飯とか買いに行かされてんだぜ。手にいっぱい弁
当やらジュースやらもってさ。金は全部リョウの奴が払ってんだ。知らなかったろう。
アツコ そうなの…
ユイ べらべらしゃべっちゃって…
マサオ 俺はさ、いっつもそんなことばっかしてっからさ、へへへ…だんだん快感になってきてさ…
ユイ そういうのをマゾって言うの。
マサオ へへへ……女王様ってが……
ユイ バカ……
リョウ駆け込んでくる。
ユイ おかえり。
リョウ おい、おい、出口、どっちだっけ。
マサオ へへへ
リョウ へへへ……笑うな！ 出口…ははは…学校しばらくぶりだから、忘れちゃった、ハハハ
マサオ ハハハ
ユイ ハハハ
アツコ ないのよ、出口。
リョウ え？ マサオ…どういうことだ、あん？
マサオ だから…その…
リョウ 分かった、夢だ、俺今日朝起きらんなくて、そうだそうだ、また寝たんだ…ははは…俺学校になんか来る
わけねえもんな……アハハ…
アツコ、リョウの頬を思いっきりつねる
リョウ あてててててて！
アツコ （にこっと笑って）夢じゃないのよ。
ユイ こいつとお仲間ってことね、あたし達も…あああ
マサオ 共通点、ますますないよね…ははは、ははは……救助隊でも呼ぶ？ 自衛隊がいいかな俺的には…
アツコ 気配なし。
ユイ ヘリの音、全然なし。
マサオ 来るわけないよな。
ユイ 原因不明
アツコ 意味不明
ユイ この…五人に共通点なし。
マサオ 三年四組……関係ないね。
アツコ 信頼関係なし。
ユイ 友情なし。
アツコ 優しさなし。
ユイ 思いやりなし。
マサオ 学問なし。
アツコ 夢なし。
ユイ 安らぎなし。
アツコ 団らんなし。
ユイ 何それ……
アツコ 熱いみそ汁
マサオ オヤジだな。
ユイ 意味わかんない。
アツコ しばらく食べてないなあ。
ユイ 訳わかんない。
アツコ お母さんさあ、仕事変えたの。
ユイ 夜の仕事？
アツコ そういうこと……
ユイ ないよね…団らん…
マサオ 何それ……
ユイ 一家団欒……あんた…ある？
マサオ あるよお…
アツコ 聞きたい…マサオの一家団欒。
マサオ 俺さあ、オヤジにビールついでやるんだ。
アツコ・ユイ おおお…
ユイ すごいじゃん。
マサオ ユイ、お前はどうなんだよ。
ユイ あたし？ あたしは、そうねえ、寝るときお休みって言うかな。
アツコ・マサオ おおお…
マサオ 家庭的だ。
アツコ 本当ね、うらやましい。
マサオ なんだ、あるじゃない、一家団欒…
アツコ リョウは…リョウにはある？
リョウ 俺？ あるわけないじゃん。
アツコ あたしと同じだ。
リョウ おめえのとは違うよ。
アツコ どう違うのよ。
リョウ 俺…親の顔知らない…
マサオ おお…すごい…
ユイ これは適わないわね。
アツコ すごいじゃないリョウ。
ユイ アッコの家なんか幸せじゃない。
アツコ ほんとね。
リョウ お前ら…アホか…
マサオ ははは…いずれにしても…
アツコ 共通点なし。
マサオ 理由なし。
ユイ バッカみたい……
アツコ ははは
ユイ ははは
マサオ ははは
リョウ はははって、おい、どうなってんだあ、一体？
ミノリの英語を読む声が大きく響いてくる
マサオ しょうがない、皆さん、勉強でもしますか。
ユイ マジで言ってんの？
マサオ 命令ですからね。
それぞれ思い思いの場所に座る。
間
アツコ あたし、リョウのこと探してたんだよ。
リョウ 何言ってんだ……関係ねえだろ今。
アツコ 毎日、毎日…ハラダの奴、リョウから連絡ないかってうるさいから、どうせリョウのこと捕まえて退学さ
せるんだなって、だから、早くあんたの居場所見つけて、そのこと話そうかと思って。
マサオ 退学？
ユイ リョウ、あんた何かやったの？
リョウ 関係ねえっつってんだよ。
ユイ 万引き？ けんか？ ねえ、クスリ？
リョウ やってねえよ！
アツコ リョウ！
リョウ 俺のことはほっといてくれよ……俺、帰る。
マサオ ハハハ
リョウ むかつくんだよ。
リョウ、マサオを殴る。
マサオ ハハハ
ユイ ハハハ
アツコ ハハハ……ハハハ
リョウ ばっかみてえ、じゃあな。
ユイ ハハハ
リョウ なんだ、おめえら、何がおかしい！
ユイ 出口。
マサオ ないんだ。
リョウ 何言ってんだ。
マサオ ハハハ
アツコ 出られないの、あたし達。
リョウ 訳わかんねえ。
アツコ あたし達も…分からない。
ユイ リョウ……
リョウ出ていこうとするが、戸が開かない。
マサオ 教えてくれよ。
アツコ 教えて、リョウ。
ユイ リョウ、あたし達、何でこんなことになってるの？
リョウ こっちが聞きてえよ。
アツコ 教えて……あたし達どうしてここにいるの？
リョウ なんだ、なんだよ……お前ら、頭おかしいんじゃねえのか。
アツコ 五人の共通点。
ユイ 見あたらず。
マサオ 出口…見あたらず。
アツコ 原因…不明
ユイ 意味…不明
マサオ 理由なし。
アツコ 未来なし。
ユイ 夢なし。
マサオ 友情なし。
アツコ 信頼関係、多分なし。
マサオ 家庭なし。
ユイ 親、なし。
アツコ 団欒なし。
マサオ 愛情なし。
ユイ 学校なし。
アツコ 優しさなし。
マサオ 思いやりなし。
リョウ うわ、うわ、うわ、うわあー！
逃げようとするリョウ
しかし逃げられない
アツコ お帰り、リョウ
マサオ ハハハ
ユイ ハハハ
ミノリの英語が不気味に響く。
リョウ うわ、うわー……なんだよお前達……
アツコ リョウ……
マサオ ハハハ…仲良くしようよ…
リョウ うわ、うわ……
ユイ さっきまでの元気はどうしたの？
リョウ お前ら、誰だ。
アツコ ひどいこと言うのね。
マサオ 仲間じゃないか…
リョウ なんだ、なんだ、気持ち悪い……俺は帰る……
ユイ 帰れないって、言ってるじゃない。
リョウ なんだよ、うわ、うわ、あー！
ナイフを出すリョウ
五人全員がナイフを持っている
リョウ なんだ、なんだ！
マサオ 流行（はやり）なんだから。
ユイ 今時持ってないと笑われるのよ。これ五千円もしたの。
アツコ ええ、本当…いいなあ。あたしお小遣い少ないから。結局百円ショップ。
マサオ プッ、俺も…ハハハハ…・・
アツコ でも、これでも十分、刺せるんだよ。
ユイ そ……
リョウ お前達…・・
ユイ それ、本物？
アツコ ダメじゃない、本物持ち歩いちゃ。
ユイ いいなあ…
マサオ 本物、欲しいよね……リョウ君、交換しよう。
アツコ あ、それ、ずるーい。
ユイ じゃんけんだよじゃんけん。
リョウ 何言ってんだ、お前ら…
ミノリ ちょっと、教室でそんなもの振り回さないでよ。さっきから言ってるじゃない、もういい加減にして。
勉強しない人は出てってよ。
アツコ 勉強しない人…
マサオ ハーイ
ユイ ハーイ
アツコ リョウは？
リョウ あん？
アツコ ハーイって言うの！
リョウ ばかばかしい。
ユイ 今なんて言った？
リョウ …・あわわ…ハーイ
アツコ 出て行こっか。
ユイ 行きたいものよね。
マサオ 四人で徒党を組んでいけば、出られるんじゃないか。
ユイ 無理よ。
アツコ でも、命令聞かなきゃ…
リョウ 命令？
マサオ しょうがねえなあ、やってみっか。
アツコ いくら命令でもさ、むかつくよね。
ユイ むかつく、無視しようよ。
アツコ そうはいかない。
マサオ ゲームなんだから。
四人、ずるずると出口に向かう。
出してー、とか助けてーとか適当に叫ぶ。
四人戻ってくる。
照明著しく変わって、そこは学校の倉庫らしき場所。
リョウ 王様、サツキを連れてきました。
ミノリ 遅かったじゃない…何やってたの？
サツキ ああ、ちょっと、病院行って来たの、それで遅れたの…ああ、診察券あるのよ、見る？ それに薬だって
……（鞄の中身をばらまいてしまう）ごめんなさい……
アツコ あああ、床汚しちゃって……
ユイ どんな怪我？
サツキ ちょっと……
ミノリ サツキ、また嘘ついてるんじゃないの。
リョウ うそ…
アツコ うそ…
ユイ うそ…
ミノリ サツキはね、昔から、困るとすぐ病院行って来たって言うのよ。
サツキ 嘘じゃないの…本当なの……
ミノリ そうやって、嘘じゃないのって言い訳するのも上手なのよね。
リョウ うそつき
アツコ うそつき
ユイ うそつき
マサオがサツキの道具をほうきで掃いている
サツキ あ……
ユイ マサオ、何おもしろいことやってるのよ。
アツコ サツキさんごめんね、こいつバカだからさ。
マサオ （サツキの道具をほうきで掃きながら）ハハハ、この方が早いと思って。
サツキの道具を拾うアツコ
アツコ はい、サツキさん……（下に落とす）
マサオ おい、何やってんだよ。
ユイ アッコ、どうしちゃったの？
アツコ ごめんごめん、手、すべっちゃって……
ユイ すべすべのお手手でよかったですこと……
教科書を拾うミノリ
ミノリ サツキ、英語がないじゃないの……また忘れ物？
一瞬目を合わせるサツキとミノリ
リョウ しょうがない奴だ。
アツコ 手間がかかる。
ユイ 迷惑だ。
ミノリ あたしの貸してあげる。
リョウ 礼を言え。
アツコ 王様の教科書だ。
ユイ 頭を下げろ。
リョウ 土下座しろ。
マサオ へへへへへ…………へへへへへ……
サツキ ごめんなさい。
ミノリ サツキはいっつもなのよ……いつもいつもあたしが面倒見て……
アツコ しょうがない奴だ。
ミノリ あたしがいなきゃ何もできない……
ユイ だらしない奴だ。
ミノリ あなたの物がなくなると、あたしの物もなくなった。
マサオ 迷惑な奴。
リョウ 王様の命令だ……土下座しろ。
アツコ 土下座しろ
ユイ 土下座しろ
マサオ 土下座しろ……
サツキ ごめんなさい。
リョウ 王様どうしますか……
マサオ どうしますか？
ユイ どうしますか？
アツコ どうしますか？
ミノリに詰め寄る四人
ミノリ （うろたえて）そうねえ……確かサツキはマサオのことが好きだったのよ。
マサオ え？
リョウ サツキはマサオが好き。
マサオ え？
リョウ サツキ……
サツキ ……
リョウ お前マサオが好きだろう。
サツキ ……
リョウ マサオにキスしろ。
アツコ 命令だ。
ユイ 命令だ。
マサオ 冗談だろ、ちょっと、それだけは、それだけ…うわ・うわ…あー
アツコ こんなんじゃつまらない……
リョウ 王様命令を……
ユイ 命令を…・・
アツコ 命令を……
ミノリ もういいわ……
リョウ よくありません。命令を……
マサオ その通りです、命令を……
アツコ 命令を……
ユイ 命令を……
ミノリ もういいって言ってるのよ、もう充分、あたしの気は晴れたから。
リョウ ダメです、王様、サツキが図に乗ります。
アツコ 王様に迷惑をかけます。
ユイ 勉強の邪魔をします。
マサオ この倉庫から抜け出して、ハラダに告げ口するかもしれません。
リョウ ハラダに気づかれたら終わりです。
ミノリ もういいって言ってるじゃない……
リョウ いいえ、ダメです……命令を……
アツコ ダメです、徹底的に……
ユイ 最後までやらないとダメです。
ミノリ もうやめて……
アツコ どうしたの、元々はあなたが始めたことじゃないの。
ミノリ ……
アツコ サツキを連れてきたのはあなたじゃない。
ミノリ ……
マサオ サツキが邪魔だって言ったのは誰だ。
ミノリ ……
リョウ サツキのお守りはもうたくさんだって、言ったのは誰だっけ。
ミノリ ……
アツコ もう遅いわよ、ミノリ、あたし達、もう戻れないんだから。
ユイ あなたはサツキが学校に来られないようにしてってはっきり言ったのよ。
マサオ 忘れたのか。
リョウ 忘れたのか。
ミノリ ……
アツコ あなたが望んだ通りになったじゃないの。
ユイ あたし達のお陰じゃないの。
マサオ サツキは学校に来なくなった。
リョウ お前に迷惑をかけちゃいけないと思ったのか。
アツコ あたし達にいじめられて、イヤになったのか。
ユイ それはないね、サツキはあたし達が来いって言えば、必ずここにやってきた……そしてお金を持ってきた。
マサオ サツキは約束を必ず守った。
ミノリ サツキ、ごめんなさい……サツキ……
上手から突然光が射し込む。扉が開いたのである。
リョウがナイフを振りかざす。
マサオ ハラダだ。
ユイ 見つかった。
リョウ ハラダか？
アツコ ハラダだ…
マサオ ハラダだ……見つかった
ユイ ハラダだ…見つかった。
リョウ ハラダか、ハラダか、ハラダか、ハラダか………
ナイフを振りかざしてハラダに飛びかかるリョウ
ミノリ やめて、やめて、やめてー！
ミノリの絶叫とともに、照明戻って。先ほどの教室らしき場所。
サツキの姿はない。
四人がだらだらと戻ってくる
アツコ どうしたの、ミノリ、ちょっと、しっかりして、ミノリったら……具合でも悪いの？
ミノリ 大丈夫、大丈夫…
ユイ ねえ、ミノリ、王様交替しよう……ね、あなた疲れてるのよ。
マサオ さんせーい！
ユイ あたし達にはちょっと無理な命令よね、勉強しろだなんて…ククク…
アツコ そうね、さあ、やろうやろう…今度こそ勝つんだから。
ユイ リョウもやるでしょ、
リョウ ああ……
ユイ ミノリ？
ミノリ …………
じゃんけんする。リョウが勝つ。
アツコ なあんだ、つまんない。
リョウ 俺は、いいよ。
ユイ ダメよ、ゲームなんだから。
リョウ 俺は……俺は卒業したい…俺を卒業させるってのはどうだ？
ユイ 冴えないわね。
アツコ 幻滅…
リョウ 卒業させてくれ、頼む。
ユイ 今までの突っ張りはなんだったの？
リョウ へへへ
マサオ 王様の命令だぞ。
アツコ ははー
ユイ ははー
アツコ で、どうする？
ユイ 手作りの卒業証書っていうの、どう
リョウ おい、おい、違うだろう。
マサオ じゃあ、勉強してもらおうか。
リョウ おいおい。
アツコ 結局そこに行き着くのね……高校生は辛い……
ユイ じゃあどうしろっていうの？
リョウ こんなとこでどうやって勉強すんだよ。
アツコ それもそうよね。
ユイ ハラダもいないし。
マサオ やっぱハラダに頼み込むしかないんじゃないの……頭下げて……
リョウ 絶対やだ。
ユイ わがままな王様ね。
リョウ 王様っていうのはわがままなんだ。
マサオ ごもっとも。
アツコ ハラダはね、リョウのこと退学させようとしてるのよ。絶対無理よ。
ユイ なんかやったんでしょ、白状しなさい。
リョウ やってねえよ。
マサオ じゃあ、どうして退学させるんだ。
アツコ 邪魔なのよ、リョウみたいな生徒は。
リョウ だろうな。
ユイ でも、実際問題として、何かやらかさなきゃ、退学させられないんじゃないの。
リョウ 俺は何もやってねえ。
マサオ ハラダに聞いてみるか……
ユイ ハラダなし。
アツコ 方法なし。
マサオ 卒業なし。
リョウ てめえ……
ユイ もっと現実的にならなきゃ、リョウ……
リョウ ……
リョウ ……
ユイ ……あたし達だって、卒業したいのよ……どうすればいい？
リョウ 俺に聞くなよ。
ユイ 王様なんだから、何か考えてよ。
リョウ こんな時ばっかり……
アツコ そうよね、王様は威張る代わりに、部下のことを考えなきゃ。
リョウ あほらし。やめたやめた。俺は降りる。
アツコ ダメよ。
ユイ そう、ダメ。
マサオ 命令を…
アツコ 命令して、そうでないと、あたし達、何をしていいか分からないの。
ユイ リョウ……お願い、あたし達に、命令を……
マサオ 王様、命令を……自分じゃ何もできないんだ…ハハハ…
リョウ じゃあ、ははは、冗談だけどよ、ハラダ殺してもらうか…ハハハ…できねえだろう！
マサオ ハハハ
アツコ ハハハ
ユイ ハハハ
リョウ なんにもできねえくせに、命令命令ってうるせえんだよ！……冗談、冗談だよ…ハハハ…
アツコ 退学かかってるもんね。
リョウ ハハハ…
ユイ でもさ、殺したい奴っているよね。
アツコ いるいる。
ユイ アッコは？
アツコ あの男かな。
ユイ 意味深ね。
アツコ お母さんの、ね。
ユイ 複雑ね……ミノリは？
ミノリ あたし？
アツコ ミノリ？
ミノリ あたしは……あたしかな…ハハハ、ハハハ
アツコ ハハハ
ユイ ハハハハハ
マサオ それってさあ、自殺ってこと？ ん？
ユイ バカ！
マサオ バカって言うな、バカ。
アツコ 刺せるかな、あたし達……
ユイ そうね、勇気ないもんね。
アツコ マサオは、どうするの？
マサオ 何が？
アツコ 誰か、刺す？
マサオ 俺は、そうだな…オヤジかな……
アツコ お父さん？ 刺しちゃうの？
マサオ 毎晩注がされるんだ、酔っぱらって、最後は、暴れてさ…殴っちゃった……毎晩だぜ……
ユイ あたしはお父さん好きだけどなあ。
アツコ うらやましい……
ユイ 先に寝ちゃうから、話したことないんだ。
アツコ マサオ、あたしの新しいお父さん刺してよ。
マサオ 俺が？
アツコ そ…
リョウ おい、おい、なんか話やばくなってねえか。
ユイ いいの、ゲームなんだから。
リョウ そうか、ハハハ……
アツコ ねえねえ、これじゃない？あたし達の共通点。
ユイ なあに？
アツコ 殺したい奴がいるっていう…
ミノリ 殺したい奴がいる人なんて、もっといるんじゃない？
マサオ ごもっとも…アッコ退場。
アツコ 何よ…せっかく思いついたのに。
リョウ ははは…殺しちまった奴ってんなら、そんなにいねえかもしんねえけどよ。
長い間
マサオ う、歌でも歌おうか。
ユイ やめてよね。
リョウ ハラダ来るかな。
ミノリ 来るわけないでしょ、こんなとこ。
アツコ そうね…
ユイ でも、命令は命令よ、最善を尽くさなきゃ。
アツコ バカみたい。
ユイ 何でよ…
アツコ 先生刺せるわけないでしょ、現実的じゃないんだから。
ユイ そうだけどさ。
マサオ ねえねえ、ここ片付けようか。
ミノリ 今さら無駄なことよ。
アツコ でもさ、他に行くとこないんだからさ。
ユイ なんのために…
マサオ ハラダ、待とうよ。
ユイ 本当に刺すの？
マサオ そうじゃなくて…あ、これ、名前が……タカダ……タカダユウジ…ね
アツコ え？ …まさか……ほんとだ。ちょっと、ねえ、机、並べてみようよ。
ユイ しんどーい。
アツコ そう言わずにさ。
ユイ 勝手にやって。
リョウ 俺もパス。勝手にやって。
マサオ 命令が出たぞ、机を並べよう。
アツコ 教室復元ね。
マサオ へへへ……俺の机あるかなあ……
アツコ あんたはいいの……あたしの机が先……
マサオ なんだよお……
アツコ 邪魔なのよ、ちょっとどいてったら……
マサオ あ、こら……
ミノリ あるわけないでしょ……・バカなんだから……
マサオ え？
アツコ なあに、バカって……
ユイ ヘン、あんたらのことじゃないのお？
アツコ むかつく……何よミノリ……文句ある？
ミノリ 無駄なこと、無駄なことやめなさいっていってるんじゃないの……
アツコ どう、どうしたの、ミノリ……
マサオ ミノリはいいよな、机あってさあ…・
ミノリ ちがう、ちがう、ちがう…あたしの机じゃない！
アツコ え？
マサオ じゃあ…（ミノリの机を見る）
アツコ なんなの？
マサオ これ、俺の……チダマサオ……へへへみっけた。
アツコ バカ……
ユイ ミノリ…・・？
アツコ ユイ……やるよ…教室…復元……
ユイ しょうがないね……
うずくまるミノリ
アツコ ちょっとミノリ…手伝わないんなら、あっち行ってて……邪魔なの……
マサオ こいつさあ……・
アツコ だれ？
マサオ タカダユウジ……こいつ俺とバッテリー組んだことあるんだ……中学校の時。
アツコ あなたピッチャー？
マサオ キャッチャー
アツコ やっぱり。
マサオ 分かる？
アツコ だってピッチャーは顔でしょ、顔。
ユイ ハハハハハ
マサオ 笑ってないで手伝えよ。ほら、ユイのイスだ……あれ、ユウジの席どこだっけ？
アツコ わかりません！
ユイ あたしのイス？…・・机は机…
マサオ 自分で探せよ……後で並べといてねえ…
アツコ ヤマダユリ。学級委員ね……ええと、ユリ、ユリ…ああ、わかんない。
マサオ こっちもだ、サトウハルト、学級委員。あいつら仲良かったよな。
ユイ 手つないで帰るんだよ、気持ち悪い。
マサオ うらやましい……席くっつけちゃおう…・
アツコ そんな前だっけ？
マサオ わっかりませーん！
リョウ けっ…しょうがねえ、手伝うか。
マサオ 王様、ありがとうございます。
リョウ イシダリョウ……俺の机だ、なんだあるんじゃねえか。とっくに片付けられたと思ってた、ハハハ。
アツコ ちょっとお…・・あたしの机……
マサオ 慌てるなよ…・
リョウ け、お前の机、意外とないんじゃねえの、アッコ退場！
アツコ むかつく！
ユイ サワダチカコ、この人左の耳が聞こえないんだよね、知ってた？
アツコ 知らなかった。
ユイ ハラダのやつ、知ってるくせに、チカコの席廊下側にしちゃってさ。かわいそうだった。
マサオ へえ、そんなことあったの。
アツコ 良く覚えてるわね……あたしなんか自分の席以外パッパラパーよ…
ユイ 反対側に席変えてあげる。
アツコ 優しいじゃん……ふん！
ユイ まあね。
マサオ アッコ……
アツコ ……
マサオ アッコ……
アツコ うるさい！
マサオ なんだよ、せっかく見つけてやったのに……
アツコ え、なに、あたし？
マサオ へへへ、へへへ
アツコ 何よ、マサオ…
マサオ この落書き、お前が彫ったのか？
アツコ 何よ…・・
ユイ 何々、見せて…・・
マサオ アイ ラブ……
アツコ キャーやめてやめて！
マサオ アイ、ラブ、リョー！
アツコ むかつく、よこせ！
マサオ あ……
アツコ あったあ……あたしだあ…・・あたしじゃん…・へへへ、へへへへへへへへへ
リョウ バーカ
アツコ バカって言うな、バカ！ うふ…
リョウ てめえの机が見つかりゃそれでいいのか、おい！
アツコ そうじゃないけどお…ほらさ、やっぱりさ、分かっててもさ、うれしいじゃん、あたしはこのクラスだっ
たんだなって…・・
リョウ バカ、あたりめえじゃねえか…
ユイ くさいくさい…
マサオ そうだよね…当たり前だよね、ハハハ、ハハハハハ
リョウ バカ…・・
アツコ ササキユウ、ああ、ユウちゃんか…どうしてるかなあ。
ユイ 仲良かったっけ（ぶっきらぼうに）
アツコ ううん、一回話しただけ。とってもかわいい声してるから、覚えてるんだ。でもね、中学校一緒だったん
だよ、友達になっとけばよかった。
ユイ 友情あるじゃん。
アツコ ないよ、ないから友達になれなかったんだよ。
ユイ そういうもんかなあ……
マサオ ヨシダコウジ、こいつイヤな奴だった。
アツコ コウジ君でしょ…あたしは好きだな。
マサオ だまされてんだよ。
アツコ もてない男がひがまないの。
マサオ どもすみませーん…席……どこだっけ？
アツコ 覚えてないよ……
リョウ おい、こいつだれんだよ…
ユイ え？ 名前ないの？
マサオ どれどれ…ほんとだ……
ユイ あたしのかな…やっと見つかった？
アツコ ユイのはここにあるよ……
ユイ あ…
マサオ ハハハ……
アツコ （机の落書きを見て）アイ エクソシスト・・・ハハハ・・・あたしって英語赤点！
ユイ いばるな、バカ！
アツコ バカって言うな、バカ！
ミノリ アイ…イグズィスト……（I exist……）【つぶやくように】
リョウ は？
マサオ は？
アツコ は？
ユイ は？
アツコ これ、ミノリの机？
ユイ なんだあったじゃん……
マサオ ははは、あった、あった……
アツコ ミノリ……よかったじゃない……
マサオ へへへ、へへへ
ユイ ミノリ
アツコ 元気だそうよ、ミノリ･･･
ミノリ ……
アツコ あなた、座席覚えてる？（ミノリを席に座らせる）
ミノリ ……
ユイ あんた記憶力抜群でしょ！
リョウ ほらほら、やるのかやらねえのか……
アツコ はいはい……
リョウ ハネダキミコ……こいつ席どこだ……
ユイ ミノリ…
ミノリ あ…一番前（後ろ向きのまま）
リョウ ほいほい・・・
アツコ さすがね……
ユイ ここよ、ここの違い……
リョウ わるうござんした……ほらイスも……
アツコ ちょっともっと静かに運んでよ。
ユイ カミダユウスケ…ユウスケクーン……
マサオ ユイ、仕事仕事。
ユイ うるさいわね。
マサオ 相手にしてないって。
ユイ むかつく！
マサオ あ、ケイコちゃん
アツコ ケイコちゃん？
ユイ マサオが好きなのはおかあちゃんじゃなかったの？
リョウ 覚えてるもんだな、なんだかんだ言って、知らない名前ねえもんな。
アツコ カタヤマサツキ……
ユイ サツキ？
ミノリ ・・・サツキは一番後ろ…
リョウ 誰だそいつ。
マサオ ほら…
アツコ リョウ、学校来てなかったから……
ユイ そうかそうか、知らないんだ。
リョウ なんだよ……教えろよ。
マサオ 死んだんだ…首くくって……
ユイ ほら、要らない机とか置いてある、プールの脇の倉庫で……
リョウ …………
アツコ もう三ヶ月ねえ。
ユイ 覚えてるの？
アツコ あたしの誕生日だったの。
ミノリ お花があるとよかったね。
ユイ 優しいじゃん。
ミノリ 幼なじみだったの。
アツコ 優しさあるじゃん、あたし達。
リョウ ねえよ。
ユイ ……
アツコ ……
ミノリ ……
マサオ ……
ユイ これで全員？
アツコ 後はハラダの教卓だけっと……
マサオ 来るかな、ハラダ……
ユイ ちゃんと並べようよ。
アツコ その調子その調子･･････
マサオ 俺はここだ…リョウ、こっちこっち…
リョウ ああ……
ユイ あたしここよね。
アツコ これでよしっと……なんだ、意外と簡単じゃない、もっと早くしとけばよかった。
ユイ ちょっと埃くさいけどね。
リョウ おいマサオ、席変われ。
マサオ え？
リョウ 俺は一番後ろがいいんだよ。
アツコ リョウ、ダメよ、ちゃんと決まってるんだから。
リョウ 誰が決めたんだよ。
アツコ あなた学校来てなかったんだからしょうがないじゃない。文句言わないの。
リョウ だめだめ、認めなーい。どうせハラダが勝手に決めたんだろ…俺は後ろ…な、いいだろ！ …マサオ…分
かってんだろーな。
マサオ は、はい。
アツコ もう、マサオ、しっかりしなよ。
マサオ 僕は前でいいです。
ユイ でもさ、席変えちゃったら、先生来ないんじゃない。
アツコ 何言ってるの、ユイ…
ユイ だってさ、ハラダの奴うるさいじゃない。一つ席ずれただけでも見逃さないんだよ。
リョウ 分かったよ…おめえ、もっと前行けよ。
ユイ ダメよ、一センチでもずれたら、ハラダの奴いやがるんだから…
リョウ やだやだ…
アツコ あー、それだったら、チカコちゃんの席廊下側に戻さなきゃ。
ミノリ やめて……
アツコ え？
ミノリ いいじゃない……あたしたち、優しいんだから……
間
アツコ ハラダの奴……ハラダの奴、誉めてくれるかな。
ユイ でもハラダが来たら、やらなきゃないんだよ……ひと思いに……命令なんだから。
マサオ ハハハ…せっかく教室できたのに……ハハハ…やれるかな、俺……
アツコ なんか、懐かしいね。
ユイ うん、変な気持ち。
間
ミノリの嗚咽が漏れる
うつむくユイとアツコ
間
マサオ 歌でも歌おうか…
沈黙
リョウ 海は広いな大きいな 月が昇るし日が沈む…（音が合っていない）
微かに笑う生徒達
アツコ へたくそ…
笑い声（ここで誰が笑うかは演技者に委ねられる）
ゆっくり溶暗
（幕）
Copyright 1999 Hiroyuki Sugiuti.